倒産の研究#2
雑記(メモ)です。
・対象企業の倒産年度について
2000年以降の上場廃止企業の倒産に絞ろうかと考えています。理由としては、2000年4月に民事再生法が施行され、和議法が廃止されたという点。2000年までは殆どの企業は会社更生法により会社の再建を目指すことが多かったようですが(私的整理も多くあったようですが...(未検証))、しかし2000年以降は使い勝手のよい民事再生法により再建を目指すケースが多く見られます。よって、今後の会社倒産にも対応できるモデル構築を目指すためにも民事再生法施行以後の企業のみを対象とすることにしました。
・倒産の定義について
単純に倒産という場合、多くの研究や民間調査会社の定義では会社更生法・民事再生法・破産法・特別清算(法的整理手続き)を指します。(銀行取引停止処分を受けた時や任意整理も含めるケースもあります。)
今回の私の定義では把握が困難と思われる為私的整理は含まないことは確定したのですが、銀行取引停止処分を受けた企業をどうするかが問題となりました。
そこで2000年以後にに銀行取引停止処分を受けて上場廃止となり、その後倒産した企業を調べたのですが、どうやらシルバー精工(6453)のみのようです。
倒産までの流れとしては、
2011年1月29日付で銀行取引停止処分に伴い上場廃止
↓
同年9月27日に民事再生法適用を申請(この時点で倒産の定義に該当)
↓
同年12月27日に東京地裁から民事再生手続廃止決定並びに破産手続開始決定
というような流れです。
しばらく悩みましたが、法的整理手続き申請まで約8ヶ月のディレイはあるものの1年以内であるため銀行取引処分も倒産の定義に含めて良いと判断しました。
・対象企業について
次に、有価証券報告書の提出遅延とか倒産以外の理由によって上場廃止となりその後倒産した企業を対象企業に含めるかが問題となりました。先程のシルバー精工もこちらに該当するといえば該当しますね。銀行取引停止処分は財務的な問題であり倒産に直結するのでパスするとして、問題は有価証券報告書提出遅延・虚偽記載・TOB/MBOにより上場廃止となった企業をどうするかです。
これらの企業は勿論倒産に該当しません。しかしながら、その後法的整理手続きの申請を行った場合に「上場企業の倒産」に含めないのはいささか違和感があります。特に有価証券報告書の虚偽記載の多くは業績の悪化等に伴う粉飾決算であるため、名目(紙面)上の上場廃止理由は有価証券報告書の虚偽記載であっても財務状況に関しては法的整理手続きの申請によって上場廃止となる企業と変わらないのではないかと考えます。このような企業を対象企業に含めない場合それはモデル構築上良くないことでしょう。
ですが、含めた場合にはそれに伴い新たな問題が発生します。それは、上場廃止から何年までを含めるのかという問題です。「(現在の)上場企業の倒産予測モデル構築」を目指している以上、上場廃止から5年や10年経過してから倒産した企業まで含むとモデルの定義と反します。
(ここで研究自体を「過去に上場していた企業の倒産経過の研究」等に切り替えるという手もなきしもあらずですが...私の興味から言えば現在の上場企業に適用できるようなモデルを構築を目指したいところです。)
この他にも以外にも財務データ等の入手可能性が上場企業でなくなると一気に低下するという問題もあります。
結論が出ていませんが、上場廃止となった企業のその後を可能な限り調べた後に上場廃止から何年以内に倒産となった企業を「上場企業の倒産」とするか決定したいと思います。
・対象業種にいて
できる限り多くの業種に対応できるようなモデル構築を目指したいところですが、私が研究可能な特定業種に絞るかもしれません。これはまだ未定です。
倒産の研究#1
自分なりの倒産モデルの構築を目指して卒業論文の執筆(の前段階)を始めた入江であったが...
現在思い浮かべている卒論のマイルストーンはこんな感じです。
1.倒産の定義決定(まぁこれは東京商工リサーチ(TSR),帝国データバンク(TDB)の定義の
ままになりそうですが...)
2.倒産企業のデータ収集及び範囲の限定化(業種、倒産時期、倒産原因、その後)
3.範囲を絞った後の企業の倒産までの財務データ収集(5~10年)
4-1.倒産企業の財務データに見られる傾向分析
または
4-2.倒産企業の競業他社との財務データを収集し倒産企業と比較分析
5.(可能ならば)定性的研究
6.倒産予測、倒産診断モデルの構築
7.執筆
8.査読
と、ざっと書いてみましたが現時点で難問がたくさんあるんですよねぇ...
現在の進捗...
A.倒産の定義を決定
B.倒産の企業のデータ収集の為範囲を設定
- 1 上場企業
- 2 銀行業は除く
上場企業に絞った理由は財務データの入手が比較的に容易であると判断したためです。
また同様の理由で今後倒産企業の倒産時期でも絞っていきたいと考えています。
銀行業を除いた理由は財務諸表の形式が異なる為です。
とりあえずA,Bに基づいてデータを集めていったのが↓です。
これは、wikipediaの東京証券取引所で上場廃止となった企業一覧 - Wikipediaを元に作成して行きました。(財務データの入手可能性について考える前に作ったのでかなり昔の企業からとなっています)。まだ有報の入手可能性について詳しく調べていないのですが、恐らくEDINETでの提出が義務付けられた2004年あたりからは確実に入手できるのですが、それ以前となると大学のデータベースの利用が必要になると思います...
次の問題点として、このデータのままだとAの倒産の定義で定めた私的整理が含まれません。また、私的整理についての情報をどのように集めるかという点がまだ決まっておらず分析云々の前にデータ集めで長期戦となりそうな予感がします...
とてもつらい。
卒論のテーマどうするかなぁ
ご無沙汰していました、入江です。今回も卒論のテーマについてです。
56日前のブログでも同じこと書いてるじゃねーか!と言われそうですが、未だに卒論のテーマを決めかねています...orz
前回の時点では、日本企業の配当政策についてにするようなことを言っていましたが、あれから色々と先行研究や己の興味と向き合った(ホントォ?)結果...
倒産予測モデル構築について
にしようかと考えています...まぁテーマについてまだゼミの先生に話していないで、通るかは分からないですが...(笑)
卒論のネタを考える#1
こんにちは 今日は卒論のネタを考えていきたいと思います。卒論!?提出までまだ1年近くあるじゃねーかって思われるかもしれませんが、春休み明けからしばしば進捗発表をしないといけないので今の内から考えていきたいと思います。今回はネタ出しなので口語的に書いていきたいと思います。
今のところの題材
今思い浮かべている題材としては、日本企業の配当政策についてですかねー 日本企業のROEの低さが前々から話題となることが多いですが、ROEの決定要因は2つある訳で1つ目はROEの計算式(当期純利益/純資産)の分子である当期純利益、2つ目は分子である純資産です。
ROEを高めるためには一般論から言えば純利益を増やすことでROEを高めるのがメジャーなんでしょうが、日本企業にはROEの決定要因の2つめの分子に問題があるのではないかというのが私の推測です。
要は企業が安全性重視で内部留保を多くしているため、分母が大きくなりROEが下がっているのではないかと。本来、内部留保が多く(=現金預金を多く保有するこになっている)有望な投資先がなくなっている場合配当や自己株の取得で株主に還元すべきです。株主は企業に出資した資金が定期預金にぶち込まれて金利を得ることを期待している訳ではありませんので...
東証一部だけで現金/時価総額≧50%,現金/総資産≧30%の企業が100社以上存在するとからそのような傾向がみてとれると思います。(但しこれは業種ごとのさらなる分析が必要)
また、最近は外国人株主の増加で企業もROEの向上に対してプレッシャーがかかっているようですが、未だに日本企業の経営陣はWACCを意識した資金管理ができていないのではないでしょうか?
ここまでとりとめもなく書いてしまいましたが、とりあえずまとめると
①日本企業では安全性を重視した結果、ペイアウトが増えずその結果ROEも高まらない状況にあるのではないか。
②日本企業は現金預金の保有額が多すぎる(要検証)のでWACCを意識した資金管理ができていないのではないか。
③これらの結果国際的な市場においても日本企業の評価が低くなっているのではないか。
このような感じですかね。
もう少し頭の中を整理してまた次回テーマを詰めて行きたいと思います。ここまで読んで頂きありがとうございました。
途中経過
こんにちは しばらく更新が途絶えてましたが、本を読んだりしてました。簡単に感想や学んだことをまとめていきたいと思います。
www.amazon.co.jp東芝事件についての本です。
とても丁寧に取材している印象を受けました。この一冊で大方の東芝事件の背景にある企業風土やトップの行動などについて知ることができたように思います。また、現在の監査法人制度、特に報酬支払いの問題(監査を受ける企業か監査法人に対して報酬を支払うというねじれ)についても改革が必要だと感じました。これについては、証券会社が監査法人に報酬を支払う形にするだとか意見が出ては消えていっている気がしますが、最近はどうなんでしょうねぇ...
生涯投資家
www.amazon.co.jpニッポン放送事件などで有名となった村上世彰さんの本。正直村上さんについては、バックグラウンドや実際に何をしたのかを知らないままに捕まった=悪い人と考えていました。ですが、バリュエーションや企業財務論を学ぶ者としてとても共感できる主張が多くあり印象が大きく変わりました。それとともに、バブル期以降でさえ経済の事象や事件についての知識不十分であると痛感させられる一冊でした。
新・企業価値評価
「新・企業価値評価」はまだ読んでいる途中ですが、企業価値評価をする上での考え方や実務レベルでの計算方法が載っていてとても参考になっています。特に継続価値の割引率の問題で”TV(ターミナルバリュー)=FCFt/r-g の成長率(g)がその国のGDPの成長率を超えるということは、いつかその企業だけで日本企業全体のリターンをカバーすることになる”という記述を見て、過去数年間の成長率をそのまま継続的な成長率として扱っていた私の計算方法が馬鹿げていることを知ることができました...この本を熟読してあらためてバリュエーションにチャレンジしたいと思います。
企業価値評価#1 日本水産(1332)
- 1.当該企業を選んだ理由
- 2-1.CAPMを計算する
- 2-2. βを計算する
- 2-3.CAPM(株主資本コストを計算)
- 3.WACC(加重平均資本コスト)を求める
- 4.継続価値を計算するために成長率を求める
- どうしたものか
今回は、日本水産㈱(1332)の企業価値評価にトライしていきたいと思います。
1.当該企業を選んだ理由
証券コードが一番若い企業だから。 以上!
2-1.CAPMを計算する
今回は(も)DCF法を使って企業価値を算定していきたいと思います。
割引率であるWACC(加重平均資本コスト)算定する為にCAPM(株主資本コスト)を算定して行きたいと思います。
2-2. βを計算する
過去5年分の株価データを元にβ(日経平均ver,TOPIXver)を計算。今回はその平均値を使っていきます。
(一応10年分の財務データがあるので10年分計算しましたが、今回は使いません)
2-3.CAPM(株主資本コストを計算)
CAPMの式を使って株式コストを計算していきます。
3.WACC(加重平均資本コスト)を求める
自己資本比率はバフェットコードから。負債コストは支払利息/(期首有利子負債+期末有利子負債)/2で期中平均有利子負債で利息を割ることで求めました。
4.継続価値を計算するために成長率を求める
さて、DCF法による企業価値は大抵今後5年間ほどのFCFの見積もり価値に加え、その後(5年目以降)のFCFの価値を計算して割り引くことによって現在の事業価値を計算します。企業は永遠に事業活動を行うという仮定のもとで計算するとn年目以降(今回は5年)の事業価値については
等比数列によって
という式で表すことができます。なお、入江は数学は高校で留年しかけるぐらい苦手なので数学的な理屈は理解していません。
以下はイメージ図です。
(あと、今回の記事ではFCF(フリーキャッシュフロー)についても全く説明していないので自分の知識の整理のためにもまとめの記事を書かないといけないですね...)
話がずれましたが、継続価値をを計算する際の分母を計算するために10年間の年平均成長率を計算したのですが....
どれもWACCより大きい....
このまま計算すると、分母がマイナスとなることで継続価値がマイナスとなってしまいます...DCF法的にそれはまずないことなのでどこかがおかしいということになります。
私が企業価値を計算する際には、WACCが極端に低くなりWACC-成長率がマイナスになるケースがしばしば発生します。
今回の日本水産㈱の場合ROEが13%なので、順当に考えて10%程度のWACCがあってしかるべきなんですが...
日本は国債の利回りが低いのでCAPM、ひいてはWACCも低くなってしまう傾向にはあるのですが、それにしてもこれは低すぎですね。
どうしたものか
WACC-成長率がマイナスになってしまい企業価値の推定は非常に困難になってしまいました。いつもは時間の都合などで無理やり割引率がプラスになるように調整したりするんですが(オイ
この問題が解決しない限り、これからもまともな企業価値が難しいと思うので、今回はこの辺にして次回からはこの継続価値の割引率について自分なりに考えていきたいと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございました。読者の方でファイナンスにつよい方がいらっしゃいましたら、是非助言や参考になる図書を教えてください。宜しくお願いします m(_ _)m
Reutersの株式ベータは一体何者なのか
Reuterの株式β
Bloomberg社が株式βの無料での公開を終了して以後、私はCAPM用いて株主資本コストを算定するためにReuter通信が提供している株式βを利用していました。
企業価値評価をやったことがある人は一度は参考にされたことがあるのではないのでしょうか?
(参考)株式β(ベータ):ある株式の市場全体の動きに対する個別株式の感度。
例えばβが1.5である株式は日経平均が10%上昇した場合15%上昇する。
事の発端
先日、なおころさんが作成された日経225データセットを購入しました。
折角購入したので、早速今日このデータを活用して株式βを求めるところから簡単に企業価値評価をできるEXCELシートを作ってみようと作業をしていたのですが...
事件が発生
自分が計算した株式βとReuterのHPに載っている株式βが0.3以上も乖離してるではないですか!*1*2
入江:0.725
Reuters:1.05
βが0.3も乖離すると株主資本コストの算定上かなり差が発生します。
(参考)
CAPM(株主資本コスト)=リスクフリーレート+株式β×リスクプレミアム
リスクフリーレート
リスクフリー(リスクがない)金融商品から得られるリターンのこと。一般的に長期国債のリターンが該当する
リスクプレミアム
ある金融商品のリスクを負担した際にその見返りとして得られるリターンのこと。金融商品のリターンからリスクフリーレートを引いたもの該当する
(このあたりはもっと簡単に説明しているブログや本が沢山あるのでそちらを参考にしてください)
なぜ株式βが乖離した?
同じ株式について計算した株式βが乖離する要因として考えられるのは、
- 証券市場全体を代表する値として使っている指標が違う
- βを計算する期間が違う
などが挙げられます。
ということで、それぞれ条件を変えてReutersのβの正体(計算条件)を突き止めていきました。
条件設定
- 市場全体を代表とする値として使う指標:日経平均、TOPIXの2つを設定
- 期間:5年3年の2つを設定
- 終点となる月:日本水産㈱の決算である3月(今回は2018年3月)と閲覧日の前月(2018年12月)の2つを設定
ちなみに、最初に計算したのは日経平均、5年、3月終点でした。
(なお、各月の株価や指数は月末の終値をベースとしているものとして条件としませんでした。)
結論
結論から言えば、ReutersのβはTOPIXを市場全体を代表とする値として使う指標とし、期間は5年で、終点となる月は閲覧日の前月であると考えます。
以下それぞれの条件下で計算した2019年1月現在の日本水産のβ値です。
Reuters:1.05
5年/決算日終点 | 5年/閲覧日前月終点 | 3年/決算日終点 | 3年/閲覧前月終点 | |
日経平均 | 0.72565 | 0.91642 | 0.77902 | 1.18343 |
TOPIX | 0.91956 | 1.05126 | 0.92846 | 1.25699 |
(表の出力の仕方がいまいち分からないマン...見づらくてごめんなさい)
感想
今回は指標が何者なのかを推察しただけでしたが、条件設定などなかなか楽しかったです。また、自分が普段使ってる指標がどのような条件の元で計算されているかって結構重要だと思います。(同じ名前でも計算の仕方が複数ある指標って結構ありますしね...)
というかReutersのβの算定方式ってどこにも載ってないんですかね?私が調べた限りは見つかりませんでしたが...
また、市場全体の動きを表す指標としてTOPIX(東証1部全体)を使うか日経平均(日本経済新聞社が選定した225社)を使うかで平均して0.2ほどβの値が異なるのには驚きました。これからCAPMを計算する際には両方を使って計算することも必要かもしれませんね...(笑
あとmsnマネーのβの算定方式も調べてみたいですね。
それでは今回はこの辺りで。ご覧いただきありがとうございました。ご意見やご指摘があればコメント欄から宜しくお願いいたします。